令和8年度の技術士第二次試験から、「技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)」の改訂版が適用されます。受験申込み案内には次のように書かれています。
令和5年1月25日に開催された文部科学省科学技術・学術審議会技術士分科会において「技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)」が改訂されました。令和8年度の技術士第二次試験より、改訂後の「技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)」に基づいて実施します。
なお、筆記試験及び口頭試験の試験内容についての変更はありません。
最後の一文が重要です。試験の形式や配点、合否決定基準は変わりません。変わったのは、試験が受験者に確認しようとしている能力の定義文です。なお、コンピテンシー改訂とは別に、令和8年度の実施大綱では試問事項の表記自体も変わっています(区分Ⅱが「技術士としての適格性」から「技術士としての取組姿勢」へ、Ⅰの①②の順序が入れ替わり)。市販の想定問答集や受験者の体験記は令和7年度以前の番号で書かれているため、番号ではなく項目名で対応させてください。案内の巻末(77頁から78頁)に新旧対照表が掲載されており、改訂個所には下線が付されています。
変わった項目と変わらない項目
コンピテンシーは8項目あります。新旧対照表を突き合わせると、文言が変わったのは4項目、変わらなかったのが4項目です。
| 項目 | 令和8年度からの扱い |
|---|---|
| 専門的学識 | 変更なし |
| 問題解決 | 変更あり |
| マネジメント | 変更なし |
| 評価 | 変更なし |
| コミュニケーション | 変更あり |
| リーダーシップ | 変更なし |
| 技術者倫理 | 変更あり |
| 継続研さん | 変更あり |
以下、変わった4項目を原文で確認します。
1. 問題解決— データ・情報技術とステークホルダーの意見
問題解決は2つの記述からなり、その両方に加筆がありました。
改訂前(1つ目)
業務遂行上直面する複合的な問題に対して,これらの内容を明確にし,調査し,これらの背景に潜在する問題発生要因や制約要因を抽出し分析すること。
改訂後(1つ目)
業務遂行上直面する複合的な問題に対して,これらの内容を明確にし,必要に応じてデータ・情報技術を活用して定義し,調査し,これらの背景に潜在する問題発生要因や制約要因を抽出し分析すること。
加わったのは「必要に応じてデータ・情報技術を活用して定義し」です。問題を明確にする段階で、データや情報技術を使って問題を定義することが明示されました。
改訂前(2つ目)
複合的な問題に関して,相反する要求事項(必要性,機能性,技術的実現性,安全性,経済性等),それらによって及ぼされる影響の重要度を考慮したうえで,複数の選択肢を提起し,これらを踏まえた解決策を合理的に提案し,又は改善すること。
改訂後(2つ目)
複合的な問題に関して,多角的な視点を考慮し,ステークホルダーの意見を取り入れながら,相反する要求事項(必要性,機能性,技術的実現性,安全性,経済性等),それらによって及ぼされる影響の重要度を考慮した上で,複数の選択肢を提起し,これらを踏まえた解決策を合理的に提案し,又は改善すること。
加わったのは「多角的な視点を考慮し,ステークホルダーの意見を取り入れながら」です。技術者だけで選択肢を比較するのではなく、関係者の意見を取り入れる過程が定義に組み込まれました。
2. コミュニケーション— 情報技術・包摂的・協働
改訂前
業務履行上,口頭や文書等の方法を通じて,雇用者,上司や同僚,クライアントやユーザー等多様な関係者との間で,明確かつ効果的な意思疎通を行うこと。
改訂後
業務履行上,情報技術を活用し,口頭や文書等の方法を通じて,雇用者,上司や同僚,クライアントやユーザー等多様な関係者との間で,明確かつ包摂的な意思疎通を図り,協働すること。
変更点は3つです。冒頭に「情報技術を活用し」が加わったこと。「明確かつ効果的な意思疎通」が「明確かつ包摂的な意思疎通」になったこと。そして「行うこと」が「図り,協働すること」になったことです。
「効果的」から「包摂的」への置き換えは、性格が変わる変更です。効果的は伝達の効率を指しますが、包摂的は誰を意思疎通の場に含めるかを問います。さらに末尾に「協働」が加わり、伝えるだけでなく一緒に進めるところまでが定義に入りました。
なお、海外業務に関する2つ目の記述(一定の語学力による意思疎通、現地の社会的文化的多様性の理解と協調)は改訂前と同じです。
3. 技術者倫理— 経済・持続可能な成果・文化的価値
技術者倫理は3つの記述からなり、うち2つに変更があります。
改訂前(1つ目)
業務遂行にあたり,公衆の安全,健康及び福利を最優先に考慮したうえで,社会,文化及び環境に対する影響を予見し,地球環境の保全等,次世代にわたる社会の持続性の確保に努め,技術士としての使命,社会的地位及び職責を自覚し,倫理的に行動すること。
改訂後(1つ目)
業務遂行にあたり,公衆の安全,健康及び福利を最優先に考慮した上で,社会,経済及び環境に対する影響を予見し,地球環境の保全等,次世代にわたる社会の持続可能な成果の達成を目指し,技術士としての使命,社会的地位及び職責を自覚し,倫理的に行動すること。
変更点は2つです。予見すべき影響の対象が「社会,文化及び環境」から「社会,経済及び環境」になりました。また「次世代にわたる社会の持続性の確保に努め」が「次世代にわたる社会の持続可能な成果の達成を目指し」になり、努力から成果の達成へと表現が変わっています。
改訂前(2つ目)
業務履行上,関係法令等の制度が求めている事項を遵守すること。
改訂後(2つ目)
業務履行上,関係法令等の制度が求めている事項を遵守し,文化的価値を尊重すること。
「文化的価値を尊重すること」が加わりました。1つ目の記述から「文化」が抜けて「経済」に置き換わり、代わりに文化的価値の尊重が法令遵守と並ぶ独立した要素として2つ目に移った、という構造です。
3つ目の記述(自らの業務及び責任の範囲を明確にし、これらの責任を負うこと)は変更ありません。三義務二責務との関係を含む倫理の質問対策は「技術者倫理の質問(三義務二責務・公益確保・コンプライアンス)」で扱っています。
4. 継続研さん— CPD活動とコンピテンシーの維持・向上
4項目のなかで、最も大きく書き換えられたのが継続研さんです。
改訂前
業務履行上必要な知見を深め,技術を修得し資質向上を図るように,十分な継続研さん(CPD)を行うこと。
改訂後
CPD活動を行い,コンピテンシーを維持・向上させ,新しい技術とともに絶えず変化し続ける仕事の性質に適応する能力を高めること。
改訂前は「十分な継続研さんを行うこと」という量の話でした。改訂後は「コンピテンシーを維持・向上させ」「変化し続ける仕事の性質に適応する能力を高める」という、目的と結果の話になっています。何時間やったかではなく、何が維持・向上したかを説明する枠組みです。CPDについての口頭試験の答え方は「継続研さん(CPD)の質問に何を答えるか」で扱っています。
口頭試験の枠組みは変わらない
冒頭で引用したとおり、案内は「筆記試験及び口頭試験の試験内容についての変更はありません」と明記しています。口頭試験の試問事項と配点は次のとおりで、改訂による変更はありません。
| 区分 | 試問事項 | 配点 |
|---|---|---|
| Ⅰ 技術士としての実務能力 | ① マネジメント、評価 | 30点 |
| Ⅰ 技術士としての実務能力 | ② コミュニケーション、リーダーシップ | 30点 |
| Ⅱ 技術士としての取組姿勢 | ③ 技術者倫理 | 20点 |
| Ⅱ 技術士としての取組姿勢 | ④ 継続研さん | 20点 |
各項目60%以上の得点で合格、試問時間は20分(10分程度延長の場合もあり)です。配点の構造と合否基準は「技術士二次 口頭試験の試問事項と配点(令和8年度)— 4項目すべて60%の意味」を参照してください。
注目すべきは、試問事項①マネジメント、評価に対応するコンピテンシー(マネジメント・評価)は変更がなく、②に対応するコミュニケーションとリーダーシップのうちコミュニケーションだけが変わり、③技術者倫理と④継続研さんは両方とも変わっている、という分布です。配点でいえば、変更があったコンピテンシーが直接効いてくるのは②の一部と③④の40点分です。
令和8年度の受験者が実際にやること
試験形式が変わらない以上、対策の大枠を変える必要はありません。ただし、改訂後の文言に含まれる語を、自分の業務で説明できるようにしておく価値はあります。具体的には次の4点です。
- データ・情報技術:問題の定義や調査の段階で、どのようなデータや情報技術を使ったか。
- ステークホルダーの意見:解決策を選ぶ過程で、誰の意見をどう取り入れたか。
- 包摂的な意思疎通と協働:意思疎通の場に誰を含めたか、その結果どう協働したか。
- CPDによるコンピテンシーの維持・向上:CPD活動の結果として、自分のどの能力が維持・向上したか。
いずれも、受験申込書の「業務内容の詳細」に書いた業務のなかから引き出せる話です。口頭試験は「業務経歴を踏まえ実施する」と案内に明記されているため、申込書の720字にこれらの要素が入っているかどうかが、そのまま準備の余裕につながります。申込書と口頭試験の関係は「受験申込書は口頭試験の台本になる— 試問事項4項目から逆算して業務経歴票を書く」で扱っています。