試問事項③「技術者倫理」は配点20点です。①②の30点に比べて小さく見えますが、合否決定基準は4項目すべて「60%以上の得点」と定められているため、ここを落とせばそれだけで不合格になります。計算上、20点の60%は12点です。
そして技術者倫理は、4項目の中で唯一、答えの土台が法令の条文として確定している項目です。準備の費用対効果が最も高い項目とも言えます。
公式のコンピテンシー定義(令和8年度適用の改訂版)
業務遂行にあたり,公衆の安全,健康及び福利を最優先に考慮した上で,社会,経済及び環境に対する影響を予見し,地球環境の保全等,次世代にわたる社会の持続可能な成果の達成を目指し,技術士としての使命,社会的地位及び職責を自覚し,倫理的に行動すること。/業務履行上,関係法令等の制度が求めている事項を遵守し,文化的価値を尊重すること。/業務履行上行う決定に際して,自らの業務及び責任の範囲を明確にし,これらの責任を負うこと。
この定義は3つの文に分かれており、それぞれ別の質問に対応します。
- 公衆の安全・健康・福利の最優先 → 「技術者倫理で最も重要だと考えることは何ですか」
- 関係法令等の遵守 → 「コンプライアンスについてどう考えますか」
- 自らの業務及び責任の範囲の明確化 → 「業務で倫理的な判断を迫られた場面はありますか」
なお受験申込み案内の新旧対照表によれば、この項目は改訂前から文言が変わっています。改訂前は「社会,文化及び環境に対する影響」「次世代にわたる社会の持続性の確保に努め」でした。改訂後は「社会,経済及び環境」「持続可能な成果の達成を目指し」となり、さらに2文目に「文化的価値を尊重し」が加わっています。
三義務二責務(技術士法の条文)
「技術士法の三義務二責務を説明してください」は定番の質問です。根拠は技術士法の第44条から第47条の2で、条文は次のとおりです。
義務
- 第44条(信用失墜行為の禁止) — 技術士又は技術士補は、技術士若しくは技術士補の信用を傷つけ、又は技術士及び技術士補全体の不名誉となるような行為をしてはならない
- 第45条(技術士等の秘密保持義務) — 技術士又は技術士補は、正当の理由がなく、その業務に関して知り得た秘密を漏らし、又は盗用してはならない。技術士又は技術士補でなくなつた後においても、同様とする
- 第46条(技術士の名称表示の場合の義務) — 技術士は、その業務に関して技術士の名称を表示するときは、その登録を受けた技術部門を明示してするものとし、登録を受けていない技術部門を表示してはならない
責務
- 第45条の2(技術士等の公益確保の責務) — 技術士又は技術士補は、その業務を行うに当たつては、公共の安全、環境の保全その他の公益を害することのないよう努めなければならない
- 第47条の2(技術士の資質向上の責務) — 技術士は、常に、その業務に関して有する知識及び技能の水準を向上させ、その他その資質の向上を図るよう努めなければならない
覚え方の要点は3つです。
- 義務3つは「してはならない」という禁止の形、責務2つは「努めなければならない」という努力義務の形で書かれている
- 秘密保持義務は「技術士でなくなつた後においても、同様とする」まで含めて条文である
- 資質向上の責務(第47条の2)は、試問事項④の継続研さんと直結する。詳しくは継続研さん(CPD)の口頭試験質問に何を答えるかを参照
条番号と見出しを口に出して言えるようにしておくと、この質問は確実に得点できます。
「最も重要だと考えること」への答え方
この質問で軸になるのは、コンピテンシー定義の冒頭「公衆の安全,健康及び福利を最優先に考慮した上で」です。技術士法第45条の2の「公共の安全、環境の保全その他の公益を害することのないよう努めなければならない」も同じ方向を指しています。
したがって答えの骨格は次のようになります。
- 公衆の安全・健康・福利を最優先することが根本にある、と述べる
- なぜ最優先なのか(発注者や自社の利益と衝突しうるからこそ、順位が定められている)
- 自分の業務でその順位が実際に試された場面を1つ挙げる
3が最も重要です。抽象論だけで終えると、定義の「倫理的に行動すること」に答えたことになりません。ただし、ここで作り話をしないこと。実際にあった判断で構いません。工期やコストの都合で省略を求められた確認作業を実施した、想定より厳しい条件が判明したときに設計方針を見直した、といった規模の話で十分です。
「公益確保とコンプライアンス」への答え方
この2つは並べて聞かれることが多く、関係を整理して答える必要があります。
コンプライアンス(関係法令等の遵守)は、コンピテンシー定義の2文目にあたります。一方の公益確保は1文目、そして技術士法第45条の2の責務です。
両者が一致している限り問題は起きません。論点になるのは、法令を形式的に満たしていても公益を害しうる場面です。基準を満たしているが現地条件から見て不十分と判断される場合、法令に規定のない新しい事象に直面した場合などが該当します。
この場合の答えは、コンピテンシー定義の3文目「自らの業務及び責任の範囲を明確にし,これらの責任を負うこと」に接続させます。すなわち、自分の判断できる範囲を明確にしたうえで、判断できない部分は誰に上げたか、記録として何を残したかまで述べる。ここまで語れると、責任の引き受け方を含めた答えになります。
準備の手順
- 技術士法第44条・第45条・第45条の2・第46条・第47条の2を、条番号と見出し付きで暗記する
- コンピテンシー定義の3つの文を、それぞれ自分の言葉で30秒で説明できるようにする
- 受験申込書に書いた業務の中から、安全・品質と、コストや工期が競合した場面を1つ選び、判断の根拠と、責任の範囲をどう線引きしたかを整理する
3の材料は受験申込書の中にあるのが理想です。試問は「業務経歴を踏まえ実施する」と案内に明記されているためです。書類段階での設計については申込書が口頭試験の台本になる理由— 試問事項から逆算して書くにまとめています。
4項目の配点と合否決定基準の全体像は技術士第二次試験 口頭試験の試問事項と配点(令和8年度)を参照してください。