口頭試験で筆記試験の答案について質問されることは、あります。ただし頻度は高くありません。公開されている令和元年度以降の再現記録のうち、本文を読み取れた11本を数えると、本人が「筆記答案について聞かれた」と書いているのは1本、「聞かれなかった」と明記しているのが5本でした。
この記事は、筆記試験の合格発表を待っている人、あるいは再現論文を作るかどうか迷っている人に向けて書いています。根拠は2つで、試験のルールは実施大綱と受験申込み案内の原文、実際に何が起きたかは受験者本人が公開している再現記録です。講座の経験則ではなく、数えられる数字だけを置きます。
結論を先に書くと、再現論文は「全文の暗記」ではなく「自分が何をどう書いたかを説明できる状態」まで用意すれば足ります。 その理由も、大綱の条文と再現記録の中身から説明できます。
公式の根拠は「実施大綱」にある
口頭試験の性格を定めているのは、科学技術・学術審議会 技術士分科会試験部会が毎年公表する「技術士第二次試験実施大綱」です。令和8年度版には次のように書かれています。
⑵ 口頭試験
① 口頭試験は、筆記試験の合格者に対してのみ行う。
② 口頭試験は、技術士としての適格性を判定することに主眼をおき、筆記試験における記述式問題の答案及び業務経歴を踏まえ実施するものとし、筆記試験の繰り返しにならないよう留意する。
前半の「筆記試験における記述式問題の答案及び業務経歴を踏まえ実施する」が、筆記答案について問われうる根拠です。試験官の手元には、あなたが7月に書いた答案がある前提で試験が組み立てられています。
案内には載っていない後半の一文
注目してほしいのは、同じ文の後半です。
「筆記試験の繰り返しにならないよう留意する」 — この一文は、受験申込み案内には書かれていません。案内(84頁)を全文検索しても出てきません。載っているのは実施大綱だけで、こちらは別のPDFとして公表されています。案内しか読んでいない受験者は、この条件を知らないまま準備することになります。
意味するところは明確です。口頭試験は、筆記で問われた専門知識をもう一度確かめる場ではありません。答案を材料として使うことはあっても、答案の内容そのものを詰める試験にはしない、と試験を設計する側が自ら定めています。したがって、筆記の論文を丸暗記して臨む準備は、大綱の設計思想からずれています。
配点と試問事項の全体像は技術士第二次試験 口頭試験の試問事項と配点(令和8年度)で扱っています。
再現記録11本で、実際はどうだったか
SUKIYAKI塾(pejp.net)に公開されている令和元年度〜令和6年度の再現記録のうち、本文を読み取れた11本を数えました。内訳は総合技術監理部門が4本、それ以外の技術部門が7本です。
| 年度 | 部門・科目 | 筆記答案への質問 |
|---|---|---|
| 令和元年度 | 総監/建設-施工計画 | 記載なし |
| 令和2年度 | 総監/建設-道路 | なかった(本人が明記) |
| 令和3年度 | 総監/電気電子-電気設備 | なかった(本人が明記) |
| 令和3年度 | 建設/道路 | あった |
| 令和4年度 | 建設/トンネル | 記載なし |
| 令和4年度 | 建設/都市及び地方計画 | なかった(準備はしていた) |
| 令和5年度 | 建設/道路 | 記載なし |
| 令和6年度 | 応用理学/地質 | なかった(本人が明記) |
| 令和6年度 | 建設/土質及び基礎 | 記載なし |
| 令和6年度 | 建設/道路 | 記載なし |
| 令和6年度 | 総監/建設-道路 | なかった(本人が明記) |
筆記答案について本人が何か書いているのは11本中6本で、そのうち聞かれたのは1本です。残る5本は記載がないため、聞かれなかったのか、単に書き残さなかったのかは判別できません。「必ず聞かれる」でも「絶対に聞かれない」でもない、という以上のことはこのデータからは言えません。
聞かれなかった側の記録には、本人の推測が添えられているものがあります。令和6年度・応用理学(地質)の受験者は「筆記試験に関する質問はありませんでした(すべてA 判定)」と書いています。評価が良かったから確認する必要がなかった、という見立てです。
一方で、令和4年度・建設(都市及び地方計画)の受験者は、筆記のⅡがB評価だったため筆記回答への質問も準備していた、と書いたうえで「求められませんでした」と続けています。B評価だから必ず突かれる、というわけでもありません。
聞かれた1本は、どう聞かれたか
実際に問われた令和3年度・建設(道路)の記録では、試験官は答案の中の言葉を引用する形で質問しています。
筆記試験時、問題Ⅲ(大雪時の交通対策)の回答で「リスクアセスメントが重要」との回答をされていますが、具体的にどのようなリスクアセスメントが必要と考えていますか。
聞かれ方の特徴は2つあります。第一に、答案全体の再説明ではなく、答案に書いた一語を取り上げて「具体的には」と踏み込む形であること。第二に、その一語が受験者自身の言葉であることです。試験官が新しい論点を持ち込んでいるのではありません。
この受験者は所感で、この質問が予想外であり、唯一的確に答えられなかったと書いています。そして、なぜ自分が聞かれたのかについて次のように推測しています。問題Ⅲの回答が大雪時の対策に関するもので、詳細業務の事例と関連が深かったため質問されたのだろう、と。
ここから読み取れる実務的な示唆は、筆記答案と業務内容の詳細の題材が近いときほど、答案側から質問が飛んでくる可能性が上がる、ということです。申込書と口頭試験のつながりについては受験申込書は口頭試験の台本になるで扱っています。
答案は返ってこない — 手元に残るのは自分の再現論文だけ
準備量を決めるうえで外せない制度上の前提があります。受験申込み案内には、次のように明記されています。
採点結果の内容(答案用紙の開示を含む)に関する問合せには、一切応じません。
答案用紙は開示されません。つまり、口頭試験の場で試験官が見ている答案を、受験者は手元に持っていません。持てるのは、自分で書き起こした再現論文だけです。
一方で、科目ごとの評価(A/B/C)は分かります。同じ案内には、筆記試験の合否と成績を郵便で通知し、合格者には口頭試験の日時・試験会場を併せて通知する、と書かれています。自分がどの科目で何評価だったかは、口頭試験の前に判明します。
日程の全体像は筆記合格発表(11月4日予定)から口頭試験までを参照してください。
どこまで準備するか
ここまでの材料をまとめると、準備の水準は次のように置けます。
- 再現論文は作る。ただし全文暗記はしない。 大綱が「繰り返しにならないよう留意する」と定めている以上、答案の内容を詰める試験にはなりません。必要なのは、自分がどの問題で何を論じ、どの語をキーワードとして使ったかを説明できる状態です。
- 自分が使った専門用語を、口頭で30秒説明できるようにする。 聞かれた1本の実例は、答案中の一語への「具体的には」でした。答案に書いた用語のうち、定義を曖昧なまま使ったものがあれば、そこが弱点になります。
- 筆記答案と業務内容の詳細の題材が近い場合は、重点的に見ておく。 聞かれた受験者本人が、関連が深かったことを理由に挙げています。
- 評価がBやCの科目があっても、そこを聞かれる前提で身構えすぎない。 B評価で準備した受験者は、結局求められていません。
再現論文づくりに時間を取られて、試問事項の4項目(マネジメント・評価/コミュニケーション、リーダーシップ/技術者倫理/継続研さん)の準備が薄くなるのは本末転倒です。配点100点はすべてこの4項目に配分されており、筆記答案そのものに配点はありません。
まとめ
口頭試験で筆記答案が問われるかどうかは、「あるが、頻度は高くない」が実データに基づく答えです。再現記録11本のうち、聞かれたと明記されているのは1本でした。
制度の側も、答案を踏まえて実施すると定めると同時に、筆記試験の繰り返しにならないよう留意すると定めています。次にやることは、答案の暗記ではなく、自分の答案で使った言葉を自分の言葉で説明できるようにしておくこと、そして配点のある4項目の準備を先に終えることです。