口頭試験が厳しいかどうかは、どの尺度で見るかで答えが逆になります。通過率で見れば厳しくありません。令和7年度は筆記合格者2,957人に対して最終合格が2,752人で、算出値は93.1%、建設部門は94.6%です。一方、合否決定基準で見れば厳しい試験です。口頭試験には試問事項4項目それぞれに60%以上という基準が独立して置かれていて、合計で91点を取っても1項目が基準に届かなければ不合格になります。
この記事は、口頭試験を厳しいと聞いて身構えている人と、落ちる人には何か共通点があるのではないかと探している人に向けて書いています。根拠は、制度については令和8年度の受験申込み案内と実施大綱の原文、数字については文部科学省と日本技術士会の公表値、実際の様子については受験者本人が公開している再現記録だけです。
先に断っておくと、この記事には落ちる人の特徴の一覧はありません。試験機関は採点結果の内容に一切答えないと明記しており、不合格だったと明かして質問と回答を逐語で再現した記録も、当サイトが確認した範囲では公開されていないからです。断定できるだけの一次資料がないものを、断定して書くことはしません。代わりに、公式資料から確実に言える厳しさの形を並べます。
通過率で見れば厳しくない — 令和7年度93.1%、建設部門94.6%
公表値から算出できる通過率は9割を超えていて、この尺度では口頭試験は厳しい試験ではありません。
口頭試験だけの合格率は公表されていませんが、文部科学省が公表する筆記試験合格者数と、受験申込み案内に載っている最終合格者数はどちらも公表値です。この2つを割ると通過率が算出できます。
- 筆記試験合格者数: 2,957名(文部科学省 技術士分科会試験部会 資料4「令和7年度技術士第二次試験筆記試験の結果について」)
- 最終合格者数: 2,752人(令和8年度 受験申込み案内「令和7年度 技術士第二次試験結果(技術部門別)」)
- 口頭試験の通過率(算出値)= 2,752 ÷ 2,957 = 93.1%
同じ式を直近3年度に当てはめると、値はほとんど動きません。
| 年度 | 筆記合格者数 | 最終合格者数 | 通過率(算出値) |
|---|---|---|---|
| 令和5年度 | 2,867 | 2,690 | 93.8% |
| 令和6年度 | 2,565 | 2,395 | 93.4% |
| 令和7年度 | 2,957 | 2,752 | 93.1% |
3年度とも93〜94%で、筆記合格者の6〜7%が最終合格に含まれていません。建設部門は令和7年度で筆記合格1,378人・最終合格1,304人、通過率94.6%です。
この数字には注意点が2つあります。第一に、分母の筆記合格者には口頭試験を欠席した人も含まれます。口頭試験の受験者数そのものは公表されていないため、厳密には口頭試験の合格率ではなく、筆記合格者のうち最終合格した割合です。第二に、これは公表値どうしの割り算であって、公式資料にこの値が書かれているわけではありません。
厳しさは部門によって一様ではない
同じ割り算を21部門すべてで行うと、値は72.7%から100.0%まで開きます。最も低いのは航空・宇宙部門の72.7%(筆記合格11人・最終合格8人)で、船舶・海洋、繊維、金属、資源工学、農業、森林、水産の7部門は筆記合格者全員が最終合格しています。
ただし、この幅の大半は母数の小ささから来ています。筆記合格が11人の部門は1人の差で9ポイント動き、3人の部門は1人で33ポイント動きます。筆記合格者が100人を超える部門に絞ると、最も低いのは機械部門の76.5%(筆記合格187人・最終合格143人)で、電気電子88.9%、上下水道91.1%、建設94.6%、総合技術監理95.0%と続きます。受験者数の多い部門ほど9割前後に収れんする、というのが公表値から言えることです。
部門別の全21行と、合格者名簿PDFの受験番号を数え直した検算結果は技術士 口頭試験で不合格になったら — 翌年の筆記免除は「ありません」(公式FAQ)・口頭の通過率93.1%の算出・再受験で変えるものに載せています。受験者に対する最終的な合格率(令和7年度で全体11.4%・建設部門9.3%)は技術士二次試験の合格率データ(令和7年度)— 全体11.4%・建設部門9.3%の実数を参照してください。筆記で9割が絞られたあとの9割が通る試験、という位置づけになります。
配点で見れば厳しい — 基準が4つあり、合計点では救われない
通過率と逆の結論が出るのが、合否決定基準の構造です。口頭試験の基準は4つあり、そのどれもが独立しています。
技術士としての実務能力 マネジメント、評価 60%以上の得点 コミュニケーション、リーダーシップ 60%以上の得点 技術士としての取組姿勢 技術者倫理 60%以上の得点 継続研さん 60%以上の得点
配点は実施大綱に書かれています。
Ⅰ 技術士としての実務能力 1.マネジメント、評価 30点満点 2.コミュニケーション、リーダーシップ 30点満点 Ⅱ 技術士としての取組姿勢 3.技術者倫理 20点満点 4.継続研さん 20点満点
この2つを組み合わせると、必要な点が項目ごとに決まります。
| 試問事項 | 配点 | 60%に必要な点 |
|---|---|---|
| マネジメント、評価 | 30点 | 18点 |
| コミュニケーション、リーダーシップ | 30点 | 18点 |
| 技術者倫理 | 20点 | 12点 |
| 継続研さん | 20点 | 12点 |
| 合計 | 100点 | — |
ここに合計点の基準はありません。極端な例を計算すると、マネジメント、評価で30点、コミュニケーション、リーダーシップで30点、技術者倫理で20点を取り、継続研さんだけが基準に1点届かない11点だった場合、合計は91点ですが不合格です。3項目が満点でも1項目で決まる、という構造が口頭試験の厳しさの正体です。
配点20点の技術者倫理と継続研さんは、点数だけ見ると軽く見えます。しかし落とせばそこで終わるという意味では、30点の項目とまったく同じ重みを持ちます。準備の時間を30点の項目に寄せすぎるのは、この構造に合っていません。
もうひとつ、筆記試験と比べると基準の数が違います。受験申込み案内の合否決定基準の表では、総合技術監理部門を除く技術部門の筆記試験に置かれている基準は、必須科目に1つ、選択科目に1つの計2つです。選択科目のⅡとⅢは表の上で1つの行にまとめられています。対して口頭試験は、試問事項ごとに4つの基準が並びます。同じ60%でも、通らなければならない関門の数が筆記の2倍になる、というのが表の形から読み取れることです。筆記側の配点と基準の全体像は技術士二次試験の科目構成と配点(Ⅰ40点・Ⅱ30点・Ⅲ30点)と合否決定基準、口頭側の4項目の内訳は技術士第二次試験 口頭試験の試問事項と配点(令和8年度)— 4項目すべて60%の意味にまとめています。
なお令和8年度は、区分Ⅱの名称が技術士としての適格性から技術士としての取組姿勢に変わり、区分Ⅰの①と②の順序が入れ替わっています。配点と各項目60%以上の基準は変わっていません。市販の想定問答集は旧番号で書かれているため、番号ではなく項目名で照合してください。
落ちる人は何が違うのか — 公式が開示するのは基準だけで、落ちた理由ではない
この問いに一次資料で答えることはできません。理由は、試験機関が採点の中身を開示しないと明記しているからです。
採点結果の内容(答案用紙の開示を含む)に関する問合せには、一切応じません。
合否と成績は本人に通知されますが、どの質問のどの答えが基準に届かなかったのかは、本人にも分かりません。そして、不合格だったと明かしたうえで質問と回答を逐語で再現した記録も、当サイトが確認した公開資料の中には見つかっていません。落ちた人が何を答えたかというデータが、そもそも公開されていないわけです。検索で出てくる落ちる人の特徴の一覧は、この空白を推測で埋めたものです。当サイトはそれを書きません。
代わりに、公式資料から確実に言えることがひとつあります。試験官の手元にある材料が、実施大綱で決められていることです。
② 口頭試験は、技術士としての適格性を判定することに主眼をおき、筆記試験における記述式問題の答案及び業務経歴を踏まえ実施するものとし、筆記試験の繰り返しにならないよう留意する。
材料は、筆記試験の記述式答案と業務経歴の2つです。業務経歴とは、4月に提出した業務経歴5行と業務内容の詳細720字のことです。試験官は4項目を判定するために、この材料から質問を作ります。
ここから導けるのは、人の資質ではなく材料の話です。4項目のうち、提出した720字と経歴票に材料がまったく含まれていない項目があれば、その項目の質問には準備なしで答えることになります。これは構造からの推論であって、公式資料が材料の薄い人が落ちると書いているわけではありません。ただし、自分で確認できる数少ない項目でもあります。提出済みの720字を4項目に当てて、材料のある項目とない項目を分けてみる作業は、発表を待つ間にできます。書き方の手順は受験申込書は口頭試験の台本になる— 試問事項4項目から逆算して業務経歴票を書くにまとめています。
再現記録11本が示す厳しさ — 想定外でも、詰まっても、合格した記録がある
本人が厳しいと書いた記録が合格し、突っ込まれなかったと書いた記録の合否が分からない、というのが公開されている再現記録の実際です。
当サイトが数えているのは、SUKIYAKI塾(pejp.net)に公開されている令和元年度〜令和6年度の口頭試験再現記録のうち、本文を読み取れた11本です。このうち合否が本文に明記されているのは3本で、すべて合格です。残り8本は本文からは合否が分かりません。
このうち、答えられなかった質問があったと本人が明記しているのは11本中1本です。令和3年度の建設部門(道路)の記録で、筆記試験の答案に関する質問について本人が次のように書いています。
唯一、的確に回答できなかった。
逆に、答えられなかった質問はなかったと明記した記録も1本あります。令和2年度の総合技術監理部門(建設-道路)の記録です。
印象としては、特に大きな突っ込みもなく、回答できなかった質問もなかった。
残り9本は、答えられたかどうかに直接触れていません。つまり11本のうち手応えを言語化しているのは2本だけで、しかもその2本はどちらも合否が本文に明記されていません。手応えから合否を推し量る材料は、公開されている記録の中にはないということです。
体感としての厳しさが最もはっきり書かれているのは、令和3年度の総合技術監理部門(電気電子-電気設備)の記録です。本人は試験中の印象をこう書いています。
想定外の質問ばかりで、試験官とは終始かみ合わない感じで終わってしまった。 (中略) 厳しい試験だったが、試験官の言う事はいちいちもっともで、自分とは技術者としての実力に差があると感じた。
そして、この記録の結果は合格です。
結果は合格だったが、幸運だったとしか言いようがないと思っている。
厳しいと感じた記録が合格し、突っ込まれなかったと書いた記録は合否が分からない。体感の厳しさと合否が対応していないというのが、公開されている11本から言える事実です。合否を決めるのは前の節で見た4つの基準だけで、試験官の反応や質問の難しさに関する規定は、案内にも大綱にもありません。
どの項目の質問が何問出ているかは技術士 口頭試験で実際に聞かれた質問 — 再現記録11本・180問を令和8年度の試問事項別に数えた、試問時間の実測は技術士 口頭試験が早く終わった・手応えがない — 試問時間「20分」の規定と、再現記録の実時間17〜25分(最短も最長も合格記録)で扱っています。
本当に厳しいのは落ちたあと — 翌年は受験申込書からやり直し
口頭試験の厳しさが最もはっきり出るのは、試験そのものではなく落ちたあとの手続きです。
筆記試験に合格しても、口頭試験で欠席・不合格の場合は、次回以降の技術士第二次試験では筆記試験から受験することになります。
筆記試験の免除はありません。翌年は4月の受験申込書の提出と受験手数料20,500円の納付から始め、7月の筆記試験を受け直します。合格した筆記の結果は繰り越されません。
通過率93.1%を15人に1人が落ちると読むか、ほとんど通ると読むかは、この復旧コストとセットで決まります。落ちる確率は低いが、落ちたときに戻る距離は1年あります。確率が低いことと、備えなくてよいことは別です。そして備える対象は、ここまでで見たとおり、4項目それぞれに材料があるかどうかという1点に絞られます。
不合格だった場合の手続きと再受験の考え方は技術士 口頭試験で不合格になったら — 翌年の筆記免除は「ありません」(公式FAQ)・口頭の通過率93.1%の算出・再受験で変えるもの、本番までの準備の順番は技術士 口頭試験 対策 — 筆記合格発表(11月4日予定)から本番までに公式資料で準備できること全部にまとめています。
まとめ — 次に取る行動
口頭試験は、通過率で見れば9割超で厳しくなく、基準の構造で見れば4つの独立した関門があって厳しい試験です。合計91点でも1項目が60%に届かなければ不合格になります。落ちる人の特徴は、採点結果が開示されず不合格の再現記録も公開されていないため、一次資料では断定できません。断定できるのは、試験官の材料が筆記答案と業務経歴の2つに決まっていることだけです。
- 4項目それぞれの必要点を確認する。18点・18点・12点・12点。配点20点の技術者倫理と継続研さんを軽く扱わない
- 提出した720字と業務経歴5行を4項目に当てる。材料がまったくない項目を1つでも見つけたら、そこが準備の起点になります
- 落ちる人の特徴を探すのをやめる。公開されている一次資料に答えはありません。その時間は自分の材料の点検に使うほうが確実です
筆記試験の合格発表から口頭試験までの日程は筆記合格発表(11月4日予定)から口頭試験まで — 令和8年度の準備スケジュールにまとめています。