口頭試験の再現記録を読んでいると、業務の技術的な深掘りが一段落したあたりで、質の違う質問が入ってくることがあります。「これまでの失敗例を教えてください」「部下からミスの報告を受けたらどう対応しますか」といった類です。技術的な正解がない質問なので身構えやすいのですが、どのコンピテンシーを見ているかが分かれば、答えの骨格は機械的に組めます。
この質問は「評価」と「リーダーシップ」を見ている
令和8年度から適用される「技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)」は、評価を次のように定義しています。
評価:業務遂行上の各段階における結果,最終的に得られる成果やその波及効果を評価し,次段階や別の業務の改善に資すること。
失敗を語らせる質問の核心はここです。何を失敗したかではなく、その結果を評価して次段階や別の業務の改善に資したかを見ています。だから「失敗の内容」を詳しく語っても点にはならず、「そこから何が変わったか」で決まります。
部下や若手に関する質問は、次の2つに紐づきます。
コミュニケーション:業務履行上,情報技術を活用し,口頭や文書等の方法を通じて,雇用者,上司や同僚,クライアントやユーザー等多様な関係者との間で,明確かつ包摂的な意思疎通を図り,協働すること。
リーダーシップ:業務遂行にあたり,明確なデザインと現場感覚を持ち,多様な関係者の利害等を調整し取りまとめることに努めること。
受験申込み案内の試問事項では、①マネジメント、評価に30点、②コミュニケーション、リーダーシップに30点が配分され、合否決定基準は各項目60%以上の得点です。失敗と指導を問う質問は、この2つの箱にまたがって入ってきます。
実際に出ている質問の型
SUKIYAKI塾に公開されている令和3〜6年度・建設部門の再現記録6本には、次の型が記録されています。
- これまでの失敗例と、それを次にどう活かしたかを教えてください
- 若手にはどう伝えていますか
- 部下からミスの報告を受けた場合、どのように対応しますか
いずれも自分の業務の中身とは独立に聞けるため、業務内容の詳細を深く準備していても、そこからは答えが出てきません。別枠で用意しておく必要があります。
「失敗例」の答えの骨格
次の順で組むと、評価のコンピテンシーの定義に沿った形になります。
- 事実を短く。 いつ、どの業務で、何が起きたか。ここは2〜3文で足ります。
- 原因を技術的に特定する。 「確認が甘かった」で止めず、なぜその確認が抜ける構造だったのかまで。
- 自分の判断と処置。 誰に報告し、何を止め、何をやり直したか。
- 検証。 処置の結果をどう確かめたか。
- 次への反映。 手順・チェック体制・設計標準など、何が恒久的に変わったか。
配分としては4と5に最も時間を使います。1〜3を長く語ると、単なる失敗談になって評価の要素が入りません。
避けたいのは次の3つです。
他責にする。 「協力会社の施工が悪かった」で終わると、自分の責任範囲の話にならず、技術者倫理の「自らの業務及び責任の範囲を明確にし、これらの責任を負うこと」からも外れます。
「失敗はありません」と答える。 評価のコンピテンシーを示す機会を自分で捨てることになります。
重大事故を無理に選ぶ。 事故の大きさは評価対象ではありません。改善につながった話であれば、規模は問われていません。むしろ大きな事故は説明に時間がかかり、20分の試問時間を圧迫します。
「部下からミスの報告を受けたら」の答えの骨格
この質問は、対応の手順そのものが評価軸になります。技術者倫理の定義が順序を決めています。
技術者倫理:業務遂行にあたり,公衆の安全,健康及び福利を最優先に考慮した上で,社会,経済及び環境に対する影響を予見し(後略)
したがって、次の順で答えるのが原文に忠実です。
- 影響範囲の確認。 公衆の安全に関わるかどうかをまず判断する。
- 止める・是正する。 安全に関わるなら作業を止め、暫定措置を取る。
- 報告する。 発注者・社内の関係者へ、事実を隠さず速やかに。
- 原因究明。 個人の不注意で終わらせず、仕組みの側を見る。
- 再発防止を組織に残す。
- 報告した部下を責めない。 報告が上がってこなくなることが最大のリスクだと説明できると、コミュニケーションの「明確かつ包摂的な意思疎通」につながります。
ここで6を最後に置いているのは、順序として最後という意味ではなく、1〜5を述べたうえで一言添える形が収まりがよいためです。冒頭で「まず部下を責めません」と始めると、安全確認より人間関係を先に置いた印象になります。
「若手にどう伝えているか」への備え
この質問は継続研さんの領域にもかかります。継続研さんの定義は次のとおりです。
継続研さん:CPD活動を行い,コンピテンシーを維持・向上させ,新しい技術とともに絶えず変化し続ける仕事の性質に適応する能力を高めること。
自分が学び続けていることと、それを組織に伝えていることを1本の線でつなげると、③技術者倫理と④継続研さんの箱にも同時に届きます。社内勉強会、設計レビューでの指摘の仕方、失敗事例集の整備など、実際にやっていることを1つ具体で言えれば足ります。やっていないことを作る必要はありません。
準備の実務
準備は次の2本立てで足ります。
1本目。 受験申込書の720字に書いた業務から、うまくいかなかった局面を1つ選び、上の5段の骨格で90秒に収めた形を作ります。720字の業務から取ると、直前の深掘り質問と話がつながるという利点があります。
2本目。 経歴票の他の行から、別の失敗例を1つ用意します。再現記録では、詳細欄以外の業務経歴についても用語の説明や効果の検証を問われた例が記録されています。詳細業務だけを準備範囲にしないほうが安全です。
配点の構造と4項目すべて60%以上という基準は技術士二次 口頭試験の試問事項と配点(令和8年度)、マネジメント・評価の側の質問は口頭試験「マネジメント・評価」で聞かれる質問と答え方の型、公益確保や三義務二責務の扱いは技術者倫理の質問(三義務二責務・公益確保・コンプライアンス)で扱っています。