令和8年度の技術士第二次試験 建設部門 河川、砂防及び海岸・海洋の選択科目Ⅲは、Ⅲ-1が複合災害の応急対応、Ⅲ-2が気候変動や社会経済情勢の変化を踏まえた事業評価を主題としており、どちらも、(1)多面的な観点から技術課題を3つ抽出し、(2)最も重要な1つに複数の解決策を示し、(3)すべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとその対策を述べる、という3段構成です。そして2問とも、その観点をどの範囲から立てるかを設問側が指定してきました。

この記事は、令和9年度以降に河川、砂防及び海岸・海洋を選択する人と、令和8年7月の筆記試験を受けて自分の答案を振り返っている人に向けたものです。模範解答や解答例は載せません。載せるのは、設問が「何を書け」と指示しているかの分解と、令和元年度から令和8年度までの河川 選択科目Ⅲ 16題を並べて数えた出題テーマ・設問形式の推移です。

根拠は日本技術士会が公表している各年度の試験問題の原文だけです。テーマ名は設問文中の語をそのまま使い、予備校の解説やまとめ記事は根拠にしていません。

令和8年度の河川Ⅲは、2問とも観点の範囲を指定してきた

まず出題の指示を確認します。選択科目Ⅲは2問題のうち1問題を選び、赤色の答案用紙3枚を用いてまとめる形式です。

Ⅲ 次の2問題(Ⅲ-1,Ⅲ-2)のうち1問題を選び解答せよ。(赤色の答案用紙に解答問題番号を明記し,答案用紙3枚を用いてまとめよ。)

出典: 令和8年度技術士第二次試験問題〔建設部門〕河川、砂防及び海岸・海洋(選択科目Ⅱ・Ⅲ)(日本技術士会)

答案用紙は1枚600字なので、3枚で1,800字です。選択科目Ⅲの配点は30点、選択科目ⅡとⅢを合わせた解答時間は3時間30分(13:00〜16:30)で、この時間内にⅡの3枚とⅢの3枚の計6枚を書きます。配点と時間の内訳は技術士二次試験の科目構成と配点・合否決定基準、答案用紙そのものの規定は筆記試験の答案用紙 — 600字の規定と合計9枚の使い方にまとめています。

Ⅲ-1(複合災害の応急対応)が指示していること

 Ⅲ-1 令和6年能登半島地震では,崩壊土砂による河道閉塞などが生じ,同年9月の記録的な豪雨では,先の地震で流出した土砂などがさらに河川の下流まで大量に流出するなど,甚大な被害が生じた。 (中略) (1)複合災害による被害を,効率的・効果的に防止・軽減する対策を実施するうえで,多面的な観点から技術課題を3つ抽出し,観点の明記とともに,それぞれの技術課題の内容を示せ。(*)   なお,観点は複合災害の応急対応に関するものとする。   (*)解答の際には必ず観点を述べてから技術課題を示せ。 (2)前問(1)で抽出した技術課題のうち,最も重要と考える技術課題を1つ挙げ,その技術課題に対する複数の解決策を,専門技術用語を交えて示せ。 (3)前問(2)で示したすべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対策について,専門技術を踏まえた考えを示せ。

出典: 令和8年度技術士第二次試験問題〔建設部門〕河川、砂防及び海岸・海洋(選択科目Ⅱ・Ⅲ)(日本技術士会)

小問ごとに、何をいくつ書けと言われているかを取り出すと次のようになります。

小問書けと指示されているもの数の指定見落としやすい条件
(1)観点と、その観点から抽出した技術課題の内容技術課題は3つ観点は複合災害の応急対応に関するものに限定されている
(2)最も重要と考える技術課題1つと、それに対する解決策技術課題は1つ、解決策は複数解決策は専門技術用語を交えて示すよう指定されている
(3)すべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクと、その対策指定なし対象は解決策の1つではなく、すべての解決策

設問が背景として挙げているのは、令和6年能登半島地震での河道閉塞と、同年9月の豪雨で地震由来の土砂がさらに下流へ流出した経緯です。先発の災害の影響が残る状態に後発の災害が重なる状況を複合災害と定義したうえで、答案の主題は復旧・復興全般ではなく、応急対応の局面に絞られています。

Ⅲ-2(水災害の事業評価)が指示していること

 Ⅲ-2 公共事業の事業評価は,公共事業の効率性,透明性の向上を図るため,平成9年度から本格的に導入され,その評価手法を定めた評価実施要領や評価手法に関するマニュアル等は,評価時点での科学的知見や社会経済情勢等を反映して継続的な改善が進められている。 (中略) (1)気候変動や社会経済情勢の変化を踏まえた事業評価の実施について,多面的な観点から技術課題を3つ抽出し,観点を明記したうえで,それぞれの技術課題の内容を示せ。(*)   なお,観点は水災害の事業評価に関するものとする。   (*)解答の際には必ず観点を述べてから技術課題を示せ。 (2)前問(1)で抽出した技術課題のうち最も重要と考える技術課題を1つ挙げ,その技術課題に対する複数の解決策を,専門技術用語を交えて示せ。 (3)前問(2)で示したすべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対策について,専門技術を踏まえた考えを示せ。

出典: 令和8年度技術士第二次試験問題〔建設部門〕河川、砂防及び海岸・海洋(選択科目Ⅱ・Ⅲ)(日本技術士会)

Ⅲ-1と並べると、(3)は一字一句同じ文です。異なるのは(1)の主題と観点の範囲、そして(2)で「うち」のあとに読点が入るかどうかだけです。令和8年度は、どちらの問題を選んでも答案の結論部分で書くものが変わりません。問題選択の判断は、(1)で3つの観点を立てられるかどうかだけで決まります。

令和8年度で初めて付いた観点の範囲指定

令和8年度の河川Ⅲで最も大きく変わったのは、(1)に付く2行です。

令和7年度まで

脚注なし。観点は受験者が自由に立てる(令和7年度Ⅲ-1は本文で「インフラの特性を踏まえて」と示唆するに留まる)

令和8年度

「なお,観点は複合災害の応急対応に関するものとする。」(Ⅲ-1)/「なお,観点は水災害の事業評価に関するものとする。」(Ⅲ-2)に加え、脚注「解答の際には必ず観点を述べてから技術課題を示せ。」が付く

この2行は、令和元年度から令和8年度までの河川 選択科目Ⅲ 16題を通して、令和8年度のⅢ-1・Ⅲ-2の2題にしか現れません。脚注(*)そのものが河川Ⅲでは令和8年度が初出です。

効いてくるのは「なお」の行のほうです。多面的な観点という要求は、従来は防災・環境・維持管理・合意形成といった軸を受験者が自分で選べるという意味でした。令和8年度のⅢ-1は、その軸を応急対応の中に置くよう指定しています。復旧計画や事前防災の観点から立てた課題は、内容が正しくても設問の指定から外れます。Ⅲ-2も同じ構造で、水災害の事業評価という枠の外に出た観点は要求を満たしません。

答案用紙3枚・1,800字に、小問3つをどう割り振るか

公表問題にも受験申込み案内にも小問ごとの字数指定はありません。判断材料になるのは、令和8年度のⅢ-1・Ⅲ-2が要求している要素の数だけです。

小問要求されている要素の数
(1)観点3つ+技術課題の内容3つ(観点は設問が指定する範囲内)
(2)技術課題1つ+解決策は複数(下限は2つ)・専門技術用語を交える
(3)リスクと、その対策(数の指定なし)

1,800字を3つの小問で単純に等分すると1問あたり600字です。ところが(1)だけは観点と技術課題の組を3つ書く必要があり、単純計算で1組200字しか使えません。要素数がもっとも多いのは(1)で、字数が最も足りなくなるのも(1)です。 さらに令和8年度は、その200字の中で指定された範囲から観点を立てたことを明示しなければなりません。過去問で答案構成を練習するときは、まず(1)に何字使うかを決め、残りを(2)と(3)に配る順序になります。配分そのものは受験者に委ねられており、正解の比率は公表されていません。

令和元〜8年度の河川Ⅲは何を出してきたか(16題の一覧)

河川、砂防及び海岸・海洋の選択科目Ⅲは全年度で2問題から1問題を選ぶ形式なので、8年で16題です。テーマ名は設問文中の語をそのまま使いました。

年度Ⅲ-1 の主題Ⅲ-2 の主題
令和元年度防災のための重要インフラの機能維持「水防災意識社会」を再構築するための取組
令和2年度データプラットフォームとICTの調査・観測への活用流砂系全体として持続可能な土砂管理
令和3年度水防災分野での遠隔化の取組地震及び津波による水防災対策施設の被災状況把握
令和4年度水災害リスクを踏まえた防災まちづくり水災害に対する防災対策事業の事業評価手法
令和5年度既存ストックを有効活用した対策住民の避難行動に結び付く災害情報の提供・共有
令和6年度大規模地震に起因又は影響して発生する3災害の事前防災対策流域治水
令和7年度持続可能なインフラメンテナンス総合土砂管理
令和8年度複合災害の応急対応気候変動や社会経済情勢の変化を踏まえた事業評価

この16題から数えられる事実は3つです。

1つ目は、主題が明確に再登場した組が2つあり、どちらもⅢ-2の側だということです。事業評価は令和4年度Ⅲ-2と令和8年度Ⅲ-2の2回、土砂管理は令和2年度Ⅲ-2と令和7年度Ⅲ-2の2回出ています。事業評価の2題は書き出しまで対応しています。

令和4年度 Ⅲ-2 の書き出し

「公共事業の評価は,事業の投資効率性,評価結果の客観性及び透明性等を高めるために,事業実施主体である行政機関等により,平成9年度から本格的に開始され,現在に至っている。」

令和8年度 Ⅲ-2 の書き出し

「公共事業の事業評価は,公共事業の効率性,透明性の向上を図るため,平成9年度から本格的に導入され」

2つ目は、Ⅲ-1が扱う災害の種類は年度で入れ替わっている一方、気候変動を背景に置く問題が令和2年度・令和4年度・令和5年度・令和6年度・令和8年度の5年度に現れることです。

3つ目は、Ⅲ-1に地震が主題として現れた年度が令和3年度・令和6年度・令和8年度の3回あり、いずれも単独の地震被害ではなく、地震と水害・土砂災害の重なりを扱っていることです。令和8年度のⅢ-1はその延長線上にあり、複合災害という語で明示的に定義しています。

次年度に何が出るかは公表されておらず、この表から出題を予想することはできません。使えるのは、河川Ⅲが災害の単発事象だけでなく、事象の重なりと事業の評価という枠組み側にも問いを置いてきたという事実までです。建設部門の他科目・他年度の設問の並びは技術士二次試験 建設部門 過去問 — 令和元〜8年度96冊728設問の索引、同じ令和8年度の他科目の選択科目Ⅲは令和8年度 建設部門 道路 選択科目Ⅲの設問の要求事項と令和8年度 建設部門 施工計画 選択科目Ⅲの設問の要求事項にあります。

設問の型は8年でどう変わったか — 課題数・語の変更・(3)の統一

主題より変化が大きいのは、答案の形をどこまで指定するかです。8年分の(1)と(3)を並べます。

年度(1)の指示(3)が問うもの(Ⅲ-1 / Ⅲ-2)
令和元年度数の指定なし・多面的な課題を抽出し分析せよ解決策に共通して新たに生じうるリスク / 同一の文
令和2年度数の指定なし・その内容を観点とともに示せ波及効果と懸念事項への対応策 / 解決策に共通して新たに生じうるリスク
令和3年度3つ・それぞれの観点を明記したうえで波及効果と懸念事項への対応策 / 解決策に共通して生じうるリスク
令和4年度3つ・それぞれの観点を明記したうえで解決策に共通して新たに生じうるリスク / すべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクと懸念事項への対応策
令和5年度Ⅲ-1は各域毎に影響を説明せよ / Ⅲ-2は3つ対策に関連して新たに浮かび上がってくる課題やリスク / 解決策に共通して新たに生じうるリスク
令和6年度Ⅲ-1は3災害毎に現象と被害を説明せよ / Ⅲ-2は3つすべての対策を実行しても新たに生じうるリスク / すべての解決策を実行しても新たに生じうるリスク
令和7年度3つの技術課題・観点の明記とともにすべての解決策を実行しても新たに生じうるリスク / 同一の文
令和8年度3つの技術課題・観点の範囲を設問が指定・脚注(*)すべての解決策を実行しても新たに生じうるリスク / 同一の文

数えると、変化は3つに整理できます。

第1に、課題の数が3つに固定されたのは令和3年度からです。令和2年度までは数の指定がありませんでした。ただし河川Ⅲには例外があり、令和5年度Ⅲ-1と令和6年度Ⅲ-1の(1)は課題を抽出せよではなく、山地域・河川域・沿岸域ごと、3災害ごとに説明せよという別の型でした。この2題では、課題抽出のパターンをそのまま当てはめると設問に答えたことになりません。

第2に、令和7年度から課題という語が技術課題に変わりました。令和7年度は選択科目Ⅲの2題で10回、令和8年度は12回この語が使われており、令和6年度以前は0回です。令和7年度Ⅲ-1には「技術課題(政策上の課題も含まれる)」という但し書きがあり、技術課題という語が技術論だけに閉じないことを設問側が明示しています。

第3に、(3)の文が令和6年度以降で統一されました。「前問(2)で示したすべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対策について,専門技術を踏まえた考えを示せ。」という同一の文が、令和6年度Ⅲ-2から令和8年度Ⅲ-2まで5題連続で使われています。令和元年度から令和5年度までは、リスク・波及効果・懸念事項・課題やリスクと、年度と問題ごとに語が入れ替わっていました。

設問から答案を組み立てる手順

過去問を使うときにまずやることは、答案を書くことではなく設問の指示を漏れなく取り出すことです。令和8年度の河川Ⅲの2問を材料にすると、手順は次のようになります。

  1. (1)の「なお」の行を先に書き出す。 令和8年度は観点の範囲がⅢ-1は応急対応、Ⅲ-2は事業評価に限定されています。観点を立ててから確認すると、3つとも組み直しになります。
  2. 2問の(1)だけを読み比べて問題を選ぶ。 令和8年度は(3)が一字一句同じなので、(2)と(3)は選択の判断材料になりません。指定された範囲で観点を3つ立てられるかどうかが分かれ目です。
  3. 観点と技術課題の内容を対にして3組並べる。 設問は「観点の明記とともに」、それぞれの技術課題の内容を示せと要求しています。技術課題の名前だけを3つ並べた答案は、内容を示すという要求を満たしません。
  4. (2)で選ぶ技術課題は(1)の3つの中から選ぶ。 設問は「前問(1)で抽出した技術課題のうち」と限定しています。
  5. (2)の解決策は複数書き、専門技術用語を交える。 「複数の解決策を,専門技術用語を交えて示せ。」なので、下限は2つで、かつ用語の水準も指定されています。
  6. (3)の対象は(2)のすべての解決策にする。 1つの解決策だけを取り上げてリスクを述べると、すべての解決策を実行してもという前提に応えていません。

この6項目は、どの年度の選択科目Ⅲでも設問文から機械的に取り出せます。答案の中身を検討する前に置く確認工程です。同じ令和8年度の必須科目Ⅰとの設問の型の違いは令和8年度 建設部門 必須科目Ⅰ(Ⅰ-1・Ⅰ-2)の設問の要求事項で比較しています。

筆記のあとに来るもの — 合格発表から口頭試験へ

筆記試験の答案は返却されないため、自分が何を書いたかを再現できるのは記憶が新しいうちだけです。

令和8年度の筆記試験合格発表は11月上旬(11月4日(水)予定)、その後、令和8年12月上旬から令和9年1月中旬にかけて口頭試験が実施されます。受験申込み案内は採点結果の内容について、答案用紙の開示を含めて問合せには一切応じないとしています。11月になってから、河川のⅢでどちらの問題を選び、3つの技術課題に何を挙げたかを確認する手段はありません。

口頭試験は筆記試験における記述式問題の答案及び業務経歴を踏まえて実施されると定められており、選択科目Ⅲで書いた技術課題と解決策は試験官の手元にある材料の一部になります。発表から本番までの逆算は筆記合格発表(11月4日予定)から口頭試験まで、試問事項と配点の構造は口頭試験の試問事項と配点(令和8年度)にまとめています。発表当日から本番までに何を準備するかは技術士 口頭試験 対策 — 筆記合格発表(11月4日予定)から本番までに公式資料で準備できること全部に順番どおりに並べています。

まとめ:次に取る3つの行動