令和8年度の技術士第二次試験 建設部門 トンネルの選択科目Ⅲは、Ⅲ-1が近接構造物に近接してのトンネル建設、Ⅲ-2が都市部でのトンネル工事の環境保全を主題とし、どちらも(1)技術課題の抽出→(2)最も重要な技術課題への解決策→(3)リスクと対応策の3段で書かせる構成です。ただし2問の要求はそろっていません。令和8年度は、課題ではなく技術課題という語を使った最初の年度です。 令和元年度から令和7年度までのトンネルⅢ 14題に技術課題という語は1回も現れず、令和8年度の2問で計10回使われています。
この記事は、令和9年度以降にトンネルを選択する人と、令和8年7月の筆記試験を受けて自分の答案を振り返っている人に向けたものです。模範解答や解答例は載せません。載せるのは、設問が何を書けと指示しているかの分解と、令和元年度から令和8年度までのトンネル 選択科目Ⅲ 16題を並べて数えた出題テーマ・設問形式の推移です。
根拠は日本技術士会が公表している各年度の試験問題の原文だけです。テーマ名は設問文中の語をそのまま使い、予備校の解説やまとめ記事は根拠にしていません。
令和8年度のトンネルⅢは何を要求しているか
まず出題の指示を確認します。選択科目Ⅲは2問題のうち1問題を選び、赤色の答案用紙3枚を用いてまとめる形式です。
Ⅲ 次の2問題(Ⅲ-1,Ⅲ-2)のうち1問題を選び解答せよ。(赤色の答案用紙に解答問題番号を明記し,答案用紙3枚を用いてまとめよ。)
答案用紙は1枚600字なので、3枚で1,800字です。選択科目Ⅲの配点は30点、選択科目ⅡとⅢを合わせた解答時間は3時間30分(13:00〜16:30)で、この時間内にⅡの3枚とⅢの3枚の計6枚を書きます。配点と時間の内訳は技術士二次試験の科目構成と配点・合否決定基準、答案用紙そのものの規定は筆記試験の答案用紙 — 600字の規定と合計9枚の使い方にまとめています。
Ⅲ-1(近接構造物への近接施工)が指示していること
Ⅲ-1 近年,地下空間の利用が進むにつれて,道路,鉄道,水路,建築物等の地上及び地下構造物やガス,電力,通信,上下水道等の埋設物(以下,「近接構造物」という)に近接してトンネルを建設する状況が増加している。 (中略) (1)近接構造物がある状況や近接施工が計画されている状況で,山岳工法でトンネルを建設する場合に考慮する技術課題を,技術者として多面的な観点から3つ以上抽出し,それぞれの観点を明記したうえで,その技術課題の内容を示せ。 (2)前問(1)で抽出した技術課題のうち最も重要と考える技術課題を1つ挙げ,その技術課題に対する複数の解決策を,専門技術用語を交えて示せ。 (3)前問(2)で示したすべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対応策について,専門技術を踏まえた考えを示せ。
小問ごとに、何をいくつ書けと言われているかを取り出すと次のようになります。
| 小問 | 書けと指示されているもの | 数の指定 | 見落としやすい条件 |
|---|---|---|---|
| (1) | 観点と、その観点における技術課題の内容 | 3つ以上 | 工法は山岳工法に固定(受験者が選ぶ余地はない)/近接施工がまだ計画段階の状況も対象に含む |
| (2) | 最も重要と考える技術課題1つと、それに対する解決策 | 技術課題は1つ、解決策は複数 | 専門技術用語を交える/解決策の段階は限定されていない |
| (3) | すべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクと、その対応策 | 指定なし | 前提は(2)のすべての解決策を実行した状態/専門技術を踏まえた考えを示す |
近接構造物の範囲は設問文の側で与えられています。地上及び地下構造物として道路・鉄道・水路・建築物、埋設物としてガス・電力・通信・上下水道が列挙されており、この列挙の外に対象を広げる余地は設問文からは読み取れません。
Ⅲ-2(都市部工事の環境保全)が指示していること
Ⅲ-2 都市部における地下空間利用は,近年,高度化・多様化・輻輳化が進んでおり,市街地や民家等に接近して工事が行われる場合がある。 (中略) このような背景を踏まえて,開削工法,シールド工法のどちらかを明記したうえで,以下の問いに答えよ。 (1)都市部でのトンネル工事において配慮すべき周辺の環境保全に関する技術課題を,トンネルの技術者として多面的な観点から3つ以上抽出し,それぞれの観点を明記したうえでその技術課題の内容を示せ。 (2)前問(1)で抽出した技術課題のうち最も重要と考える技術課題を1つ挙げ,これを最も重要とした理由を述べよ。また,その技術課題に対する調査・計画から施工までの段階における複数の解決策を,専門技術用語を交えて示せ。 (3)前問(2)で示したすべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対応策について,専門技術を踏まえた考えを示せ。
Ⅲ-2の(2)には、Ⅲ-1にない要求が入っています。
| 比較する点 | Ⅲ-1 | Ⅲ-2 |
|---|---|---|
| 工法の扱い | 山岳工法に固定 | 開削工法・シールド工法のどちらかを明記 |
| (2)で書く要素 | 技術課題1つ+解決策 | 技術課題1つ+最も重要とした理由+解決策 |
| (2)の解決策の範囲 | 限定なし | 調査・計画から施工までの段階におけるもの |
| (3) | すべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクと対応策 | 同じ |
最も重要とした理由を述べよという要求は、令和元年度以降のトンネルⅢ 16題で令和8年度Ⅲ-2が初めてです。 令和元年度から令和7年度までの14題は、最も重要と考える課題を1つ挙げたあと、そのまま解決策に入る形でした。理由を書く分の字数が(2)から差し引かれるため、Ⅲ-2を選んだ場合の配分はⅢ-1と同じにはなりません。
答案用紙3枚・1,800字に、小問3つをどう割り振るか
公表問題にも受験申込み案内にも小問ごとの字数指定はありません。判断材料になるのは、令和8年度のⅢ-1・Ⅲ-2が要求している要素の数だけです。
| 小問 | 要求されている要素の数 |
|---|---|
| (1) 両題 | 観点3つ以上+技術課題の内容3つ以上 |
| (2) Ⅲ-1 | 技術課題1つ+解決策は複数(下限は2つ)・専門技術用語を交える |
| (2) Ⅲ-2 | 技術課題1つ+最も重要とした理由1件+解決策は複数・調査・計画から施工までの段階・専門技術用語を交える |
| (3) 両題 | すべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクと、その対応策(数の指定なし) |
1,800字を3つの小問で単純に等分すると1問あたり600字です。(1)は観点と技術課題の組を3つ以上書くので、600字で3組なら1組200字しか使えません。要素数が最も多いのはⅢ-2の(2)で、理由と、段階をまたぐ複数の解決策を同じ小問に収めることになります。配分そのものは受験者に委ねられており、正解の比率は公表されていません。
令和元〜8年度のトンネルⅢ 16題は何を出してきたか
この科目は全年度で各2問題なので、8年で16題です。テーマ名は設問文中の語をそのまま使いました。
| 年度 | 番号 | 出題テーマ(設問文中の語) |
|---|---|---|
| 令和元年度 | Ⅲ-1 | 地山の崩落等の重大な労働災害や公衆災害の防止 |
| 令和元年度 | Ⅲ-2 | トンネルの安全性,公益性,品質の確保 |
| 令和2年度 | Ⅲ-1 | 施工計画における補助工法の要否判断 |
| 令和2年度 | Ⅲ-2 | 供用開始後の地山や地下水の状態の変化により発生する変状 |
| 令和3年度 | Ⅲ-1 | 山岳部のトンネル建設時に遭遇する特殊地山 |
| 令和3年度 | Ⅲ-2 | 都市部のトンネルの使用性を保持するうえで照査すべき事項 |
| 令和4年度 | Ⅲ-1 | 山間地のトンネル工事において配慮すべき周辺環境 |
| 令和4年度 | Ⅲ-2 | 都市部のトンネルで適切に評価すべき作用の設定 |
| 令和5年度 | Ⅲ-1 | 完成後に作用する外力の影響に伴い発生する変状の抑制や改修 |
| 令和5年度 | Ⅲ-2 | トンネルが所要の耐震性能を保有するための構造計画 |
| 令和6年度 | Ⅲ-1 | 都市部において山岳工法でトンネルを建設する場合 |
| 令和6年度 | Ⅲ-2 | 都市部の自立しない地盤におけるトンネルの計画 |
| 令和7年度 | Ⅲ-1 | 山岳工法でトンネルを建設する場合の肌落ち災害防止対策 |
| 令和7年度 | Ⅲ-2 | 供用中のトンネルの性能を維持し適切に管理すること |
| 令和8年度 | Ⅲ-1 | 近接構造物に近接してのトンネル建設 |
| 令和8年度 | Ⅲ-2 | 都市部でのトンネル工事において配慮すべき周辺の環境保全 |
工法の指定で分けると、配置がそろっていることが分かります。
| 年度 | Ⅲ-1の工法 | Ⅲ-2の工法 |
|---|---|---|
| 令和元年度 | 指定なし | 専門としているトンネル工法を1つ選択 |
| 令和2年度 | 専門とするトンネル工法を1つ示す | 専門とするトンネル工法を1つ示す |
| 令和3〜8年度 | 山岳(部・工法)に固定 | 開削工法,シールド工法のどちらかを明記 |
令和3年度から令和8年度までの6年12題は、Ⅲ-1が山岳側、Ⅲ-2が開削工法かシールド工法の明記という配置で例外がありません。 工法を受験者が選べたのは令和元年度・令和2年度の4題だけです。
主題の系統で数えると次のようになります。
| 主題の系統 | 題数 | 該当する年度・番号 |
|---|---|---|
| 供用後・完成後の変状と性能維持 | 4題 | 令和2年度Ⅲ-2/令和3年度Ⅲ-2/令和5年度Ⅲ-1/令和7年度Ⅲ-2 |
| 計画・設計で設定すべき条件 | 4題 | 令和元年度Ⅲ-2/令和4年度Ⅲ-2/令和5年度Ⅲ-2/令和6年度Ⅲ-2 |
| 施工時の安全・災害防止 | 3題 | 令和元年度Ⅲ-1/令和2年度Ⅲ-1/令和7年度Ⅲ-1 |
| 周辺への影響・環境保全 | 3題 | 令和4年度Ⅲ-1/令和6年度Ⅲ-1/令和8年度Ⅲ-2 |
| 地山条件・近接条件への対応 | 2題 | 令和3年度Ⅲ-1/令和8年度Ⅲ-1 |
周辺への影響・環境保全の系統は、令和4年度Ⅲ-1が山間地、令和8年度Ⅲ-2が都市部と、同じ主題が山側と都市側の両方で出ています。次年度に何が出るかは公表されておらず、この表から出題を予想することはできません。建設部門の他科目・他年度の設問の並びは技術士二次試験 建設部門 過去問 — 令和元〜8年度96冊728設問の索引、同じ令和8年度の他科目の選択科目Ⅲは令和8年度 建設部門 道路 選択科目Ⅲの設問の要求事項、令和8年度 建設部門 施工計画 選択科目Ⅲの設問の要求事項、令和8年度 建設部門 建設環境 選択科目Ⅲの設問の要求事項にあります。
令和7年度Ⅲ-2から何が変わったか — 6年続いた締めくくりの型が終わった
トンネルⅢの8年分の(3)を並べると、Ⅲ-2だけが別の型を続けていたことが分かります。
| (3)の型 | 題数 | 該当する年度・番号 |
|---|---|---|
| すべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクと対応策 | 7題 | 令和3年度Ⅲ-1/令和4年度Ⅲ-1/令和5年度Ⅲ-1/令和6年度Ⅲ-1/令和7年度Ⅲ-1/令和8年度Ⅲ-1/令和8年度Ⅲ-2 |
| 波及効果と懸念事項への対応策 | 7題 | 令和2年度の2題/令和3年度Ⅲ-2/令和4年度Ⅲ-2/令和5年度Ⅲ-2/令和6年度Ⅲ-2/令和7年度Ⅲ-2 |
| 解決策に共通して新たに生じうるリスクと対策 | 2題 | 令和元年度Ⅲ-1/令和元年度Ⅲ-2 |
令和2年度から令和7年度までの6年、Ⅲ-2の(3)は一貫して波及効果と懸念事項を問う型でした。令和8年度Ⅲ-2はこれをやめ、Ⅲ-1と同じリスク型になっています。 令和8年度は、2問の(3)が同じ文になった最初の年度です。
令和7年度Ⅲ-2の(3)
令和8年度Ⅲ-2の(3)
令和7年度Ⅲ-2の原文は次のとおりです。
(3)前問(2)で示したすべての解決策を実行して生じる波及効果と,それらの解決策を踏まえた懸念事項への対応策を示せ。
設問の型は8年でどう変わったか — 課題数と専門技術用語の指定
残る2つの指定も数えられます。
| 年度 | (1)の課題数の指定 | (1)で使われている語 | (2)の専門技術用語の指定 |
|---|---|---|---|
| 令和元年度 | 指定なし(抽出し分析せよ) | 課題 | なし(両題) |
| 令和2年度 | 指定なし(抽出し,その内容を観点とともに示せ) | 課題 | なし(両題) |
| 令和3年度 | Ⅲ-1は特殊地山2つ×それぞれ3つ/Ⅲ-2は3つ以上 | 課題 | なし(両題) |
| 令和4年度 | 3つ以上(両題) | 課題 | あり(両題) |
| 令和5年度 | 3つ以上(両題) | 課題 | あり(両題) |
| 令和6年度 | 3つ以上(両題) | 課題 | あり(両題) |
| 令和7年度 | Ⅲ-1は3つ以上/Ⅲ-2は3つ | 課題 | あり(両題) |
| 令和8年度 | 3つ以上(両題) | 技術課題 | あり(両題) |
読み取れる事実は3つです。
第1に、課題という語が技術課題に変わったのは令和8年度です。 令和元年度から令和7年度までの14題に技術課題は1回も現れず、令和8年度の2問では(1)(2)を通じて計10回使われています。
第2に、課題の数を指定しない出題は令和元年度・令和2年度の4題だけで、令和3年度以降の12題はすべて数が固定されています。令和3年度Ⅲ-1だけは形が違い、特殊地山を2つ挙げたうえで、それぞれについて課題を3つ抽出する二重の指定でした。
第3に、専門技術用語を交えて示せという(2)の指定は令和4年度に入り、以降の10題すべてに付いています。令和元年度から令和3年度までの6題にはありません。同じ令和8年度でも科目によって扱いは違い、建設環境ではⅢ-1のみに付いています。
設問から答案を組み立てる手順
過去問を使うときにまずやることは、答案を書くことではなく設問の指示を漏れなく取り出すことです。令和8年度のトンネルⅢの2問を材料にすると、手順は次のようになります。
- 工法の指定を先に確認して問題を選ぶ。 Ⅲ-1は山岳工法に固定、Ⅲ-2は開削工法かシールド工法のどちらかを明記します。自分の実務がどちらに寄っているかで、選べる問題が実質的に決まります。
- Ⅲ-2を選ぶなら、(2)に理由の記述が入ることを字数配分に織り込む。 16題で令和8年度Ⅲ-2だけの要求です。理由を落とすと要求の1つを満たさないことになります。
- 観点と技術課題を対にして並べる。 両題とも観点を明記したうえで、と要求しています。技術課題名だけを並べた答案は、観点の明記という要求を落とします。
- (2)で選ぶ技術課題は(1)の中から選ぶ。 両題とも前問(1)で抽出した技術課題のうち、と限定しています。
- 解決策の範囲の違いを確認する。 Ⅲ-1は段階の限定がなく、Ⅲ-2は調査・計画から施工までの段階におけるものと限定されています。Ⅲ-2で維持管理段階の対策だけを並べると範囲から外れます。
- (3)の前提を取り違えない。 令和8年度は2問ともすべての解決策を実行した後を前提にしています。1つの解決策だけを取り上げるとずれます。
この6項目は、どの年度の選択科目Ⅲでも設問文から機械的に取り出せます。答案の中身を検討する前に置く確認工程です。同じ令和8年度の必須科目Ⅰとの設問の型の違いは令和8年度 建設部門 必須科目Ⅰ(Ⅰ-1・Ⅰ-2)の設問の要求事項で比較しています。
筆記のあとに来るもの — 合格発表から口頭試験へ
筆記試験の答案は返却されないため、自分が何を書いたかを再現できるのは記憶が新しいうちだけです。
令和8年度の筆記試験合格発表は11月上旬(11月4日(水)予定)、その後、令和8年12月上旬から令和9年1月中旬にかけて口頭試験が実施されます。受験申込み案内は採点結果の内容について、答案用紙の開示を含めて問合せには一切応じないとしています。11月になってから、トンネルのⅢでどちらの問題を選び、どの工法を明記し、技術課題に何を挙げたかを確認する手段はありません。
口頭試験は筆記試験における記述式問題の答案及び業務経歴を踏まえて実施されると定められており、選択科目Ⅲで書いた技術課題と解決策は試験官の手元にある材料の一部になります。発表から本番までの逆算は筆記合格発表(11月4日予定)から口頭試験まで、試問事項と配点の構造は口頭試験の試問事項と配点(令和8年度)にまとめています。発表当日から本番までに何を準備するかは技術士 口頭試験 対策 — 筆記合格発表(11月4日予定)から本番までに公式資料で準備できること全部に順番どおりに並べています。
まとめ:次に取る3つの行動
- 令和7年度以前のⅢ-2で(3)を練習した人は、リスク型に切り替えて書き直す。 令和2年度から令和7年度までの6年、Ⅲ-2は波及効果と懸念事項を問う型でした。令和8年度は2問ともすべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクを問う型です。効果の記述を含むかどうかで骨組みが変わります。
- Ⅲ-2を想定するなら、最も重要とした理由をあらかじめ書けるようにしておく。 16題で令和8年度Ⅲ-2だけの要求で、令和7年度までの過去問演習の型には入っていません。理由・解決策・段階の3つを1つの小問に収める配分を先に決めておく必要があります。
- 筆記の答案を再現したメモを、口頭試験まで保管する。 答案は開示されず、口頭試験は答案と業務経歴を踏まえて実施されます。記憶が新しいうちに書き起こしておく作業は、筆記直後にしかできません。